日経新聞に連載されている「禁断のスカルペル」の中で
主人公が弁護士を立て離婚の交渉をする場面があることから
それを題材に、実際はどうなのかということを
前回、今回とお話しします。
前回は手続き面についてお話ししました。
今回は、内容についてです。
結局、主人公は、慰謝料500万円を夫に対して支払い、
子どもの親権は夫、養育費はなし、子どもとの面会は月1回
それ以上会おうとした場合は以後の接触を禁止する
というものでした。
慰謝料が500万円は過去の判例からして高すぎますね。
婚姻期間10年未満で、しかも、不貞の期間も長くても数か月というケースで
慰謝料500万円は、判決になったら認められないと思います。
主人公がこだわった子どもの親権は、
夫に取られてしまいました。
主人公は医師として働いていることから
普段、面倒を見られないのに対し、
夫は両親が面倒を見ることが可能ということで
子どものためにはそれがよいということを主人公が夫の父親に説得されてしまったためです。
裁判所では、子どもが小さいうちは母親が親権を取得することが普通で、
この点も通常よりも不利になっています。
主人公が働いている間、面倒を見てくれる人は、主人公の母親などもいたことから
こんなことで譲る必要は全くなかったと思われます。
医師として働く主人公が親権を主張するのですから、
主人公が働いている間子供の面倒をどうやって見るかは
相手との交渉前に、弁護士と依頼者との間で
打ち合わせしておくことですが、
小説の中では、されていなかったようです。
また、面接交渉ですが、罰則条項を設けられて
その後、月1回以上会いに行ったため面接交渉権をはく奪されることになります。
しかし、通常、このような罰則は設けられず、
設けたとしても無効とされる可能性があります。
以上のように、
主人公は弁護士がついていながら
通常よりも不利な和解を結んでしまいます。
このようなことは、現実では、ありえません。
通常よりも不利な和解を結ぶには
そのことにより依頼者にメリットがなければなりませんが
このケースでは、全くありません。
相手の案を、飲まなければ、家裁に調停を申し立てますと
夫から言われますが、
調停になって困るのはどちらですか
どうぞ調停にしてください
と、普通なら主人公側の弁護士が言い返すところです。
この離婚の場面は
主人公が、夫も子供も失い(その後母親も亡くし)、
孤独になる原因として書かれていることから
小説を面白くするために
現実にはありえない離婚交渉になっています。
本当に、主人公が依頼した弁護士のようであれば
何のためにお金を払って弁護士を付けたのか
わからないですね。
(裁判で十分に争って裁判所がそのような結論を出したのであれば
仕方がありませんが、任意の交渉で相手の要求を全て飲んで
こちらには何のメリットもなかったのですから)
ちなみに、不倫の相手は、夫に1000万円の慰謝料を支払いますが、
これも、現実にはあり得ません。
不貞の慰謝料は、配偶者と不貞の相手の両方に請求できますが
倍は請求できません。
例えば、不貞の慰謝料は、夫婦がそれが原因で離婚した場合
通常300万円です。
配偶者と不倫相手にそれぞれ300万円を請求できますが
合計で600万円を受け取れるわけではありません。
片方から300万円を受け取ると、それで終わりです。
受け取れる金額はあくまでも300万円なのです。
そこで、配偶者から500万円の慰謝料を取って
不貞の相手から1000万円を取り、合計1500万円を取れるなどということは
通常はありえないわけです。
通常の金額からもかけ離れていますしね。
以上のように
小説やドラマでは、
小説やドラマを面白くするために
かなり現実とは異なって書いてあるものも
多いので、
テレビでこうだった、あるいは小説でこうだったから
と判断せずに
問題を抱えたら弁護士に相談した方がいいです。