弁護士高島秀行の資産を守り残す法律

資産を守り残すために事前に備える賢い法律利用方法

第356回 吉本興業の芸人が従業員でないとしても 

前回、吉本興業の芸人は従業員かで
お話ししましたが、
芸能人やスポーツ選手の場合
従業員か、個人事業主なのかは
なかなか難しい問題があります。

特に吉本興業の芸人に関しては
おそらく吉本興業経由でしか仕事を受けてはいけないのでしょうし
芸人の肖像権等の管理も吉本興業で一括管理しているでしょうし
吉本興業の指揮命令には従わざるを得ない関係にあるのではないかと推測されますから
従業員と言える可能性は大きいと思います。

ただ、芸人は個人事業主だとしても、
今度は、圧倒的に力の強い吉本興業が芸人に対し
有利な条件で取引をするために
契約書を作成していないのではないかと疑われることから
公正取引委員会は、契約書を作成していないことは
直ちに独占禁止法に違反するわけではないが
契約書を作成していないことで
優越的地位の濫用を誘発する可能性があるとコメントしたようです。

具体的にどういうことかというと
特定のイベントについて
ギャラを50万円支払うと約束して
出演をさせたとします。
ところが、そのイベントは天気が悪かったので
お客さんが入らなかったとします。

その場合に、契約書のないことをいいことに
売上がこれくらいだったから
それに見合うギャラしか支払わないとする
ということです。

一般の芸人にとっては、吉本興業との契約を切られてしまえば
芸人としての働き口がなくなるのと同じですから
従わざるを得ないことになります。

これが独占禁止法上の優越的地位の濫用ということになります。

優越的地位の濫用というのは
一方が圧倒的に力が強い場合、その力を利用して不当な取引条件を
相手に飲ませてしまうということになります。

吉本興業と芸人が雇い主と従業員という雇用関係でないとして
吉本興業と個人事業主である芸人との取引だとしても
吉本興業と一般の芸人との間では圧倒的な力の差があることから
吉本興業が芸人に対し不利な取引条件を飲ませるのであれば
独占禁止法の適用が問題となるということなのです。



( 2019/07/30 00:00 ) Category 企業法務 | トラックバック(-) | コメント(-)

第355回 吉本興業の芸人は従業員か? 

吉本興業の芸人が、
吉本興業を通さずに受けた仕事が
反社会的勢力関係者からの仕事だった可能性があった
ということに端を発し、
吉本興業と芸人間でトラブルとなっています。

そもそも、芸人が吉本興業を通さずに仕事を受注した行為(いわゆる「闇営業」)は
適法なのかということが問題となります。

通常の会社では、従業員が会社の業務を個人で受注したら
背任罪となる可能性がありますし
会社との競業禁止義務違反となる可能性があります。

しかし、吉本興業と芸人との間では、雇用契約ではなく
マネジメント契約が結ばれているに過ぎないのです。
そもそも吉本興業と芸人は、口頭の契約で文書では契約を結んでいないので
その契約内容はよくわかりません。
ただ、吉本興業は今回の件で、芸人に対し、マネジメント契約の解除の通知をしているので
マネジメント契約だと思われます。
そして、マネジメント契約というタイトルからは
芸人が吉本興業に対し、芸人の仕事のマネジメントを委託している契約という
内容だと推測されます。

もし、吉本興業と芸人との関係が、マネジメント契約だとすれば
通常であれば、芸人が何の仕事をどこから受注しようが自由であるというのが原則です。
仕事は全部吉本興業を通さないといけないという内容である可能性もありますが
そうだとすると、芸人は吉本興業に専従していると判断される可能性があり
吉本興業の従業員と判断されてしまう可能性があります。

芸人が吉本興業の従業員と判断されると何がまずいと言えば
吉本興業は契約している全ての芸人に対して、仕事がなくても最低賃金を保証しなければなりません。
おそらく、このことを避けるために吉本興業は芸人との間で契約書を結ばず
さらに雇用契約ではなく、マネジメント契約と言っていると思われます。

今回、社長が芸人をクビにすると言ったようなことが報道されていますが
クビにするということを言うこと自体、実は、マネジメント契約ではなく
雇用契約を前提とした表現だと思います。

吉本興業の問題は、芸人との関係が実質的には雇用関係に近いにもかかわらず
雇用ではないとしていることから、生じている可能性があります。



( 2019/07/23 09:30 ) Category 企業法務 | トラックバック(-) | コメント(-)

第354回 特別の寄与の制度が創設されました(改正相続法8) 

今回の相続法改正では、
被相続人の配偶者の権利強化がなされているという話をしました。

今回は、被相続人の配偶者ではなく
相続人の配偶者などの権利が強化されたという話です。

被相続人の療養看護に務めてきた方については
相続人であれば寄与分の主張ができました。
しかし、例えば長男の妻などが被相続人の療養看護に務めてきたとしても
相続人ではないので、寄与分の主張は認められませんでした。

これについて、改正相続法では、相続人でない者が被相続人の療養看護に務めたときは
相続人に対し、金銭の請求ができることとしたのです。

これを「特別の寄与」と言います。

ただ、療養看護について、特別の寄与が認められるのは
容易ではありません。
相続人が被相続人を療養看護した場合でも
寄与分が認められることは簡単ではなかったからです。

特別の寄与が認められるには
以下の要件が必要とされています。
1 療養看護の必要性
  病気などにより、看護がないと生活ができないような状況であることが必要となります。
  病院や施設に入っていた場合は、病院や施設が生活に必要な看護をしていると思われますので
  療養看護の必要性があったとは言えなくなります。
2 特別な貢献
  金銭を支払うことが相当であると認められるくらいの特別な貢献が必要と言われています。
3 無償性
  対価を得ていなかったことが必要です。
  一緒に生活をしていて生活費を出してもらっていたような場合は無償性が認められない可能性があります。
  無償での看護であるから遺産の中から特別の寄与として金銭を支払うこととなります。
4 継続性
  一時的なものではなく相当期間に及ぶ必要があると言われています。
  1年以上が目安と言われています。
5 専従性
  仕事をしながらした場合には、特別の寄与とは言えない場合が多いと言われています。
6 財産の維持または増加との因果関係
  看護があったから、ヘルパー等に支払いをせずに済んだから遺産が残ったと言える必要があります。

以上のように、特別の寄与の制度が創設されたので
簡単に療養看護の費用が請求できると思われている方もいらっしゃるかもしれませんが
そうはならない可能性があります。
裁判所がどの程度の療養看護にどの程度の金額を認めるかは
今後の判例によるということとなります。 
( 2019/07/16 00:00 ) Category 相続・遺産分割 | トラックバック(-) | コメント(-)

第353回 配偶者短期居住権も創設されました(改正相続法7) 

前回、配偶者の権利を強化するために
改正相続法では、配偶者居住権が創設されたという
お話をしました。

今回は、配偶者居住権と名前が似ている配偶者短期居住権が創設された
というお話です。

配偶者短期居住権は、配偶者居住権と名前は似ていますが、異なる権利です。
配偶者居住権は、遺贈や遺産分割により設定される、配偶者が亡くなるまでその建物に住んでいることが
できる権利です。

これに対し、
配偶者短期居住権は、
相続開始時点で、亡くなった方の配偶者が遺産である建物に居住していた場合は
一定期間その建物に居住できる権利です。

これまで、亡くなった方と同居していた相続人は、
遺産分割協議が成立するまでは、
無償でその建物に居住することができるというのが
判例でした。

しかし、この判例に従えば
逆に遺産分割協議が成立すると直ぐに出て行かなければなりません。

また、配偶者が居住している建物を配偶者以外に相続させるという遺言がある場合や
配偶者が居住している建物を売って、その代金を相続分に従い分けるという遺言がある場合には
遺産分割協議は必要ありませんから、
配偶者は、直ぐに建物から出て行かなければならなくなってしまいます。

そこで、改正相続法では、
遺産分割協議が成立したとしても相続開始から6ヶ月を経過していない場合は
配偶者は引き続き居住していた建物に居住する権利が認められました。

また、遺言書や遺贈などで、建物を取得した人から建物から出ていくように求められたとしても
出て行くように請求されたときから、6ヶ月は建物に居住する権利が認められるとしました。

これらが、配偶者短期居住権です。
配偶者短期居住権は、
それまで住んでいた住居から直ぐに出て行かなくてもよい権利なのです。
ただ、一定期間が経過すると出て行かなければならない権利です。

これに対し、前回ご説明した配偶者居住権は
遺贈や遺産分割協議によって、その建物に亡くなるまで居住することができる権利ということになります。

このように名前が似ていても、配偶者居住権と配偶者短期居住権は
内容が異なります。
ただ、どちらも配偶者の権利を強化するために認められたという点では
同じになります。





( 2019/07/09 00:00 ) Category 相続・遺産分割 | トラックバック(-) | コメント(-)

第352回 配偶者居住権が新設されました(相続法改正6) 

今回の相続法改正では、
第348回 婚姻期間20年以上の配偶者に対する居住用不動産の贈与等の優遇措置(改正相続法2)
で説明したように、配偶者に対する居住用不動産の贈与の持ち戻しが免除されるという配偶者の優遇措置が
取られています。

今回説明する配偶者居住権の新設も
配偶者の優遇措置となります。

配偶者居住権というのは、
配偶者が被相続人の死亡時に所有の建物に居住していた場合には
配偶者居住権を取得することにより
一定期間あるいは亡くなるまで無償で居住することができる権利です。

この制度がどうして、配偶者の優遇措置なのか
ご説明します。

被相続人が高齢だった場合、通常は配偶者も高齢です。
配偶者は被相続人が亡くなった後もそれまでずっと被相続人と暮らしていた家で
暮らしたいと思うのが普通です。
そのため、通常は、被相続人の自宅の土地建物は配偶者に相続させようとすることが
多いです。
しかし、遺産が多い家庭では、それでも、何とかなりますが
下記のようなケースでは、配偶者が生活に困ってしまうということにもなりかねませんでした。

遺産が、自宅の土地建物4000万円、預貯金4000万円、
相続人が配偶者A、子供B、子供Cというケース。

法定相続分では、配偶者A2分の1、子供B4分の1、子供C4分の1となります。
それで、配偶者Aがそのまま自宅で暮らそうとして自宅の土地建物を相続するとすれば
配偶者A自宅土地建物4000万円、子供B預貯金2000万円、子供C預貯金2000万円となり
配偶者Aは他の遺産は相続できなくなります。

そこで、配偶者Aが、自宅土地建物の所有権ではなく、配偶者居住権を取得することとします。
配偶者居住権が、土地建物に対し、どれくらいの評価額となるか、
実際に裁判等が始まってみないとわかりませんが
法務省は所有権の50%くらいを想定しているようです。
私個人は配偶者居住権は第三者に譲渡したりできない一代限りの権利なので
借地権よりも弱いことから、借地割合よりももっと低い割合と評価することが妥当だと思います。

ただ、法務省の例が50%なので、50%として説明します。
先ほどの例で、配偶者Aは、配偶者居住権を取得するのであれば
評価額が自宅土地建物の50%である配偶者居住権を取得することとなりますから
配偶者Aは配偶者居住権2000万円となります。
配偶者Aは、遺産総額8000万円の2分の1である4000万円を取得できますから
まだ、2000万円を相続することができます。
そこで、預貯金から2000万円を取得することができます。

子供Bと子供Cは、
配偶者居住権付きの土地建物を2分の1ずつ相続して
預貯金も1000万円ずつ相続するか
どちらかが配偶者居住権付きの土地建物を相続し
預貯金2000万円を相続するかという話になります。

配偶者がこれまで自宅に引き続き住もうと思ったら
評価額の高い自宅の所有権を相続しなければならなかったのに
これからは、所有権よりも評価額が低い配偶者居住権を取得することにより
所有権と配偶者居住権の差額分を預貯金等で相続することができ
配偶者が引き続き自宅に住める上に
預貯金も相続することができ、今後の生活に支障が出にくくなる
ということになりました。

この配偶者居住権は、遺贈により取得させることもできますが
生前遺贈をせずに亡くなった場合は、
遺産分割調停や審判の中で、配偶者が配偶者居住権を取得したいと
主張すれば、
配偶者が配偶者居住権を取得することが可能となります。

ただし、この配偶者居住権は、今回の改正の目玉であったにもかかわらず
登記などが必要なことから、
施行は、2020年4月1日から、となっています。
したがって、改正相続法が7月1日から施行されたとしても
配偶者居住権を取得することができません。
その点は注意が必要となります。





( 2019/07/02 00:00 ) Category 相続・遺産分割 | トラックバック(-) | コメント(-)
プロフィール

弁護士 高島秀行

Author:弁護士 高島秀行
第一東京弁護士会所属
東京都港区虎ノ門で
高島総合法律事務所経営
昭和40年生まれ
昭和63年慶応義塾大学法学部
法律学科卒業
平成6年弁護士登録

著書
『訴えられたらどうする!!』
『相続・遺産分割する前に読む本』
『企業のための民暴撃退マニュアル』
『Q&A改正派遣法早わかり』

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